剛ちゃん

訪日したハーバー
人類を飢餓から救い、大量殺戮にも関わった。
ドイツ出身でユダヤ人物理化学者のハーバーである。
食糧危機を救った救世主と毒ガス殺人兵器を作る狂気とが何故同一人物なのか。
矛盾した行動を取るに至ったきっかけは以下の３点と思う。
�@ユダヤ民族としての帰属意識が薄く、ドイツ国家に生涯を捧げた。
�A就職の妨げになるからとユダヤ教に固執することなくキリスト教へ改宗した。
�B家族の幸せの為に仕事をする事は無かった。（そのつもりだったのかもしれない）
■食糧危機
肥料の３要素は窒素、りん、カリウムで植物の生長を助ける。
窒素は空気中に約８０％あるがそのままでは動植物は摂取できない。
植物が窒素を吸収する時は窒素化合物の状態で取り込む。
マメ科植物の根粒菌は酵素の働きで窒素をアンモニアに変換する。
田んぼの蓮華草の根粒菌を鋤き込むと田畑を肥沃にする根拠である。
窒素を取りこんだ植物を生物が食べ、排泄物や死骸で再び土に戻る。
窒素化合物は自然界で循環しているのである。
さて、収穫を増やす為の化学肥料の窒素は南米のチリ硝石で供給されていた。
しかし、早晩枯渇が心配されたので（リン鉱石も後数十年で枯渇する懸念がある）
２０世紀初頭、人口増加による食糧危機が叫ばれた。
そこで空気中の窒素を窒素化合物にする「空中窒素固定法」が模索された。
ハーバーは高温高圧の環境と鉄を主成分とした触媒を使い、
空気中の窒素と石炭から作った水素でアンモニアを合成する方法を発見した。
さらにＢＡＳＦ社のボッシュは工業技術として１９１３年にアンモニアの製造を始めた。
人類の食糧危機を救ったのである。（ハーバー・ボッシュ法）
ハーバーとボッシュはノーベル化学賞を受賞した。
参考：空中窒素固定法と火薬
同法は「平時には肥料を、戦時には火薬を空気から作る」と呼ばれる。
ハーバー・ボッシュ法で製造したのは肥料に使う為の窒素化合物だけではない。
アンモニアからは硝酸、硝酸からは火薬を製造できた。
食糧危機を乗り越えたと同時に爆薬の大量生産も可能とした。
同法が第一次世界大戦を長期化させた一因にもなっている。
■大量殺戮
ハーバーは「化学兵器の父」とも呼ばれている。
第一次世界大戦当時、ドイツは世界最大の化学工業国だった。
水酸化トリウム（苛性ソーダ）製造時は副生産物として塩素が発生する。
ハーバーは塩素を化学兵器に転用した毒ガス兵器を開発した。
さらにホスゲン、イペリット（マスタードガス）を製造した。
膠着した東西戦線で塹壕に隠れた敵兵士を殺すのに効果的と考えた。
第一次世界大戦では英仏露兵士に向けて塩素ガス攻撃の指揮を執った。
第二次大戦ではハーバーの殺虫剤研究が基礎となりチクロンＢが開発された。
チクロンＢはアウシュビッツ強制収容所のガス室で毒ガスとして使われる。