剛ちゃん

　
今なら携帯のお陰ですれ違いはほぼ皆無である。
西鉄天神駅の大画面前ではお洒落な恋人達が人待ち顔で壁を背にする。
携帯を片手に手を振りながら近付ける。
でも昭和５６年頃は場所や時間を覚えていないと二人出会えない。
さて２５才の冬、スナックの可愛子ちゃんに熱を上げ店に足繁く通い散財した。
ある時、オニオンスライスを注文した。
新型の薄切りハムかな？と思ったら、
出てきたのは玉葱を切って鰹節を振りかけただけの代物。
そうか、オニオンとは玉葱のことだったな。ξ
それやこれやで機が熟した頃のこと。
閉店まで粘り、勇気を振り絞って深夜の喫茶店に誘う。
そして遂に念願であるデートの約束を取り付けた。
週末のＪＲ新宿、アルプス広場で待つこと２時間。
しかし、彼女が約束の場所に現れる事はなかった。
「ああ、やっぱり振られたか、行かないなら約束などしなければいいのに・・」
「約束したのはある意味、優しさだったのかな？」
「時間か曜日を間違えたのかな？」
あれこれ想いを巡らせ、直ぐに好きの気持ちが萎える事は無かった。
さて数日後、「彼女が水泳部のＭ君とデートしていた」と噂で聞いた。
それも自分がアルプス広場にいた時間に、である。
見事な立ち回りである、一瞬で目が醒めた。
飲み屋の売上に協力した若さゆえの悲喜劇である。
そのスナックに二度と足を向けなかったのは言うまでもない。